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最高裁判所第一小法廷 平成6年(あ)437号 決定 1994年7月06日

本籍

名古屋市中村区大日町二一七番地

住居

同西区上小田井二丁目一七三番地 コーポハンター二〇一号室

不動産取引業

永井孝則

昭和一〇年一二月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成六年三月二九日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高木康次の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 大白勝)

平成六年(あ)第四三七号

○ 上告趣意書

所得税法違反 永井孝則

右の者に対する頭書被告事件について、名古屋高等裁判所の平成六年三月二九日付けで言い渡した判決に対して、被告人の申し立てた上告の趣意は、左記のとおりです。

平成六年六月一八日

被告人の弁護人

弁護士 高木康次

最高裁判所第一小法廷 御中

被告人が、第一審の名古屋地方裁判所は検察官の懲役二年・罰金四五〇〇万円との求刑に対して懲役二年・執行猶予三年・罰金三五〇〇万円に処する旨を言い渡したため、懲役刑を減せずに罰金刑も求刑を一〇〇〇万円のみ減じた点において量刑不当を理由として控訴を申し立てたところ、原判決は、控訴を棄却する旨の判決を言い渡しましたが、その刑の量定が甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるので(すなわち、本件上告の趣意は刑事訴訟法第四一一条第二号に該当する。)、原判決の破棄は到底免れないものと認められるのです。

その理由は以下のとおりです。

第一 本件各犯行の態様、被告人の捜査段階における態度と裁判を受ける態度等をみますと、被告人には第一審の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められます。

一 まず、本件各犯行は、税金遁れのため、ダミーを介在させたり、あるいは、ダミーを探したり、あるいは、脱税していることを知りながら過少申告したりなどしたのですが、これは、被告人自身脱税について詳しくなかったため、本件各犯行の主犯である岩田直志氏(以下、共犯者岩田氏と略称します。)の指図のとおり、ダミーを介在させ、あるいは、ダミーを探したり、あるいは、過少申告のために共犯者岩田氏の記載したメモに基づいて納税申告したものでありますので、被告人には第一審の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であることが明白です。

二 被告人は、国税局、検察官の取り調べ、及び、第一審と原審の公判において、本件各犯行について素直に自白しているものであって、同種事犯の被告人に比べますと、情状酌量すべき点が多々存するのです。

特に、本件各犯行の主犯である共犯者岩田氏が、未だに第一審裁判において事実関係を争って証人の取り調べや被告人質問を続行中という審理中であり、何時ごろに結審して第一審判決の言渡しがあるか不明の状況であることに思いを致しますと、被告人の情状酌量すべき点があります。

これらをみますとき、被告人には第一審の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であることが明白です。

三 さらに、被告人は、第一審の判決言渡し前の時点において、未納の脱税額約一億三〇〇〇万円のうち、七〇〇〇万円を納付済でありますが、現在の不況時のため、住宅用として購入した名古屋市東区内の宅地を売却しようとしても売却できない状況であるのに、国民としての責任を果たすため、七〇〇〇万円を納付したものであります。

それで、被告人の未納の税額は、本税のみで約六〇〇〇万円となって、逋脱額の大半を納付したものであります。

これらをみますとき、被告人には第一審の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であることが明白です。

第二 被告人には再犯の可能性は全くなく、改悛の情顕著なものが認められ、この意味において、第一審判決の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められます。

一 被告人の前科・前歴をみますと、

1 昭和四七年四月(略式裁判)の業務上過失傷害罪による罰金一万五〇〇〇円

2 昭和六二年一二月(略式裁判)の道路交通法違反による罰金一万円

3 平成四年五月(略式裁判)の道路交通法違反による罰金四万円

の三犯のみであって、他には何らの前科・前歴を有していないのであり、正式裁判としての裁きの場に立ったのは、今回が初めてでありますので、被告人は、いわば初犯者と評価できるのであります。

二 また、被告人の妻は、今回までは夫である被告人の仕事に口出ししてはならないとの考えの下に、被告人がどのような仕事をしているのか、やっている仕事がどうなっているのか、また、被告人の悩み等には全然相談に乗らなかったのでありますが、今回のことに懲りて、被告人の相談に乗り、あるいは、監督して行く旨を誓っており、現実に被告人の相談に乗り、あるいは、被告人を監督しているのでありますので、被告人には再犯の可能性は全くありません。

三 これらの事情をみますと、第一審判決の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるのです。

第三 結論

右のとおり、被告人には、種々の有利な情状がありますのに、原判決は、これらの情状を斟酌せずないし看過して、第一審判決の量刑を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められます。

以上のとおり、原判決は、その刑の量定が甚だしく不当であって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められますので、原判決を破棄して適正な判決を言い渡され、正義を実現されることを切望して、上告した次第です。

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